音楽ストリーミングの巨人Spotifyが、新たなマーケティング戦略で注目を集めています。
最新の広告キャンペーンでは、アーティストに対するファンの情熱や応援方法に焦点を当て、いわゆる「推し活」の文化を前面に押し出しています。
Spotify's New Ads are Visually Striking Love Letters to Passionate FansSpotify pays tribute to the traditions, rituals, and quirks of major fandoms in its latest global campaign.
ファン文化をアートに昇華した広告展開
この新しい広告キャンペーンは、アーティストとファンの特別な絆を視覚的に表現したもので、世界各国の街頭やデジタルプラットフォームで展開されています。
例えば、Chappell Roanのファンがコンサートでかぶるピンクのカウボーイハット、Oasisファンの間で人気の、バンドメンバーLiamやNoelに影響された髪型、Doechiiのファンが彼女のアルバムテーマにちなんだ白いワニのモチーフなど、ファン特有の「推し活」文化が鮮やかな写真で紹介されています。

ピンとこない人もいるかもしれないけど、これらのアーティストはそれぞれ異なるジャンルと時代を代表し、ファン文化を通じて世界中で愛されているよ。
アメリカ、イギリス、カナダ、ブラジルなど複数の国で展開されるこのキャンペーンには、上記のアーティストに加え、Olivia Rodrigo、Rosalía、Seventeen、Turnstileなどのファン文化も含まれています。
従来のSpotifyといえば、ユーザーの聴取データを分析した「Wrapped」キャンペーンで知られていましたが、今回はデータではなく、ファンの情熱をアート作品のように表現する新しいアプローチを取っています。
「推し活」マーケティングの深層
表面的には「どんな音楽を聴きたいか」「どんなアーティストを応援したいか」に焦点を当てているように見えるこのキャンペーンですが、より深堀りしてみるとでは「ファンのアイデンティティ」と「コミュニティの力」を強調しています。
Spotifyは単に「この曲を聴いてください」と訴えるのではなく、ファンが特定のファッションやシンボルを通じてアーティストへの愛を表現する方法に光を当てています。
これは音楽を聴くという行為を超えて、ライフスタイルや所属感といった要素を強調する戦略です。つまり「音楽は個人の自己表現の一部である」というメッセージを通じて、ユーザーとの感情的なつながりを深めようとしているのです。
ブランドポジショニングの転換
この広告キャンペーンは、Spotifyのブランドポジショニングにも大きな変化を示しています。
従来のデータ中心の「Wrapped」キャンペーンとは異なり、今回は芸術性を重視し、「ファンであることの誇り」に訴えかけています。
これはSpotifyが単なる音楽配信サービスではなく、文化や情熱を共有するプラットフォームとしての地位を確立したいという意図の表れでしょう。
現代文化との共鳴
現代の若者文化において、「自分が何を応援するか」は自己表現の重要な要素となっています。

要は推し活ですね!
SNSやリアル空間で「推し」を公言することは、個人のアイデンティティを示す手段のひとつです。Spotifyはこの文化的トレンドを巧みに活用し、ファンダム(ファン集団)を一種のトレンドセッター(新しい流行を生み出す人や物、またはそのスタイルや意見に影響力のある人)として位置づけています。
新世代のアーティストであるChappell RoanやDoechiiと、レジェンド的存在のOasisを同じキャンペーンで取り上げることで、幅広い年齢層に「自分らしさを見つけられる場所」というメッセージを発信しているのです。
「推し活」マーケティングの有効性
このようなファン文化に焦点を当てたマーケティングが有効な理由はいくつかあります。
- SNSで拡散され、さらに強い共感を得られやすい。
- 推しとプラットフォームの関係も強化できる。
まず、ファンはすでに情熱を持っているため、彼らの文化や行動を讃えることで強い共感を得られます。また、「推し活」は本質的に共有されるものであり、SNSなどで拡散されやすい性質を持っています。
さらに、ファン文化を称えることで、Spotifyはアーティストとの関係も強化できます。アーティストにとって、自分のファンが認められることは価値のあることだからです。
すると更にアーティストから良い条件が舞い込むことになり、プラットフォームの強化をすることができます。
ビートルズやローリング・ストーンズの時代から続くファン文化の伝統に敬意を表しながらも、現代のデジタル環境に適応させたこの戦略は、音楽ストリーミングサービスの競争が激化する中で、Spotifyの差別化に貢献していると言えるでしょう。
まとめ
Spotifyの新しい広告キャンペーンは、単なる音楽プロモーションを超えて、ファンの情熱とアイデンティティを讃える文化的取り組みとなっています。
「推し活」という現代のファン文化に光を当て、それをアートとして表現することで、ユーザーとの感情的なつながりを深める戦略は、音楽ストリーミング業界のみならず、「推し」が発生する業界すべてにおける新たなマーケティングの方向性を示しています。