情報との新しい出会い方
「新宿でおすすめの寿司店は?」という質問をしたとき、かつては長いリンクのリストから自分で適切な情報を探し出す必要がありました。
しかし今や、AIが瞬時にあなたの好みや予算、過去の行動パターンを分析し、厳選された3〜5店舗を提案します。しかもその提案には、あなたが明示的に伝えていない暗黙の条件まで考慮されているのです。
情報を「検索する」時代から、情報が「見つけてくれる」時代へ。この変化は、単なる技術的進化を超えて、私たちと情報との関係性を根本から変えつつあります。
デジタルマーケティングの世界、特にアフィリエイト業界にとって、この変化は生存にかかわる重大な転換点となっています。
検索結果の一覧に表示されることで訪問者を集めてきたビジネスモデルは、AIが情報を厳選して提示する世界でどう適応すべきなのでしょうか。
検索行動の静かな革命
インターネットの黎明期、情報を得るには正確なURLを知る必要がありました。次にディレクトリ型検索サービスが登場し、そして2000年代にはGoogleを筆頭とするキーワード検索が情報取得の標準となりました。
この25年間、基本的な情報取得のアプローチは「疑問を言語化してキーワードで検索し、複数の結果から自分で選ぶ」という能動的なものでした。

しかし今、この前提が大きく揺らいでいます。
2019年、米国のクリックストリーム社の調査で衝撃的な結果が発表されました。Google検索の50%以上が「ゼロクリック検索」、つまり検索結果ページだけで完結し、どのウェブサイトもクリックされないというものでした。この傾向は現在も増加しています。
ゼロクリック検索の背景には、Googleの強調スニペット、ナレッジパネル、ローカルパックといった機能強化があります。検索エンジンが単なる「案内役」から「回答者」へと進化したのです。
さらに2022年以降、ChatGPTやGemini、Claudeといった生成AIの台頭により、この傾向は加速しています。ユーザーはもはや「検索」という言葉すら使わず、AIに直接対話的に質問するようになってきました。
AIによる情報取得の変容 — 「感じる」検索の時代へ
従来の検索エンジンは「あなたが尋ねたことに答える」ものでした。しかし最新のAIシステムは「あなたが必要としていることを先回りして提供する」方向へと進化しています。
この変化を象徴するのが「AIO(AI Optimization)」の概念です。従来のSEO(検索エンジン最適化)が検索エンジンのアルゴリズムに適応することを目指していたのに対し、AIOはAIが評価し、理解できるコンテンツを作成することに焦点を当てています。
例えば、GoogleのAI Overviewは検索結果の概要をAIが生成し、ユーザーに提示します。この機能では、検索キーワードに直接関連する情報だけでなく、ユーザーが次に知りたくなるであろう情報まで先回りして提供します。
また、PerplexityやFeloといった新世代の検索体験では、背景情報の把握、ユーザーの文脈理解、暗黙の前提の識別が行われます。「東京の桜の見頃は?」という質問には、天気予報、混雑状況、おすすめの花見スポットという、明示的には尋ねられていない情報まで提供されるのです。
これは検索が「感じる」ものになったと言えるでしょう。AIが私たちの質問の背後にある意図や文脈を感じ取り、より包括的で有用な情報を提供するようになっているのです。
アフィリエイト業界が直面する実存的危機
この検索パラダイムの変化は、アフィリエイト業界に深刻な課題をもたらしています。
従来、アフィリエイトサイトはSEOを駆使して検索結果の上位表示を競い、そこからの訪問者をコンバージョンへと導くモデルで収益を上げてきました。ASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダ)を介したこのビジネスモデルは、検索からの流入を前提としていました。
しかし、ゼロクリック検索の増加と生成AIの台頭により、この前提が崩れつつあります。AIが直接回答を提供するため、ユーザーはアフィリエイトサイトを訪問する必要がなくなっているのです。
さらに深刻なのは、AIが提供する回答の中で言及される企業やサービスは、通常3〜6社程度に限られることです。たとえばAIに「おすすめの葬儀社は?」と尋ねると、何百というオプションではなく、厳選された数社のみが提示されます。この限られた「AIの推薦枠」に入れなければ、ビジネスの可視性そのものが失われる恐れがあります。
A8.netやバリューコマースといった大手ASPも、この変化への対応を模索しています。成果報酬型の広告モデルが、検索結果をクリックしないユーザーの増加によって根本から揺らいでいるからです。
アフィリエイト業界の生存戦略
では、アフィリエイト業界はこの潮流の中でどう生き残るべきなのでしょうか。いくつかの戦略的方向性が見えてきます。
1. 包括的で深いコンテンツへの転換
AIは情報源としてのコンテンツを評価する際、その深さと包括性を重視します。「薄い」コンテンツや単なるキーワード詰め込みではなく、対象トピックを徹底的に掘り下げ、ユーザーの多様な疑問に答える内容が求められます。
例えば、単に「おすすめの掃除機10選」ではなく、掃除機の選び方の基礎、種類別の特徴、メンテナンス方法、専門家のインタビュー、実際のユーザーレビューなど、トピックを網羅的に扱うことが重要です。
2. マルチモーダルコンテンツの強化
テキストだけでなく、画像、動画、音声などを組み合わせたマルチモーダルなコンテンツ作りが求められています。AIは各種メディアを通じて提供される情報を総合的に評価できるようになっており、複数の形式で価値を提供することが差別化につながります。
特に、ユーザーが直接体験できる情報(製品の使用感を伝える動画など)は、AIが要約しきれない価値を持ちます。
3. 専門性と独自視点の確立
AIが提供する一般的な回答を超える専門知識や独自の視点は、依然として価値を持ちます。業界の専門家としてのポジショニングを確立し、AIでは得られない洞察や考察を提供することで、サイト訪問の動機を作り出せます。
マニアックなテーマや、ニッチな領域に特化することも一つの戦略です。AIが一般的な情報を提供する中、特定の分野の深い知識に価値を見出すユーザーは常に存在します。
4. AIとの協働モデルの開発
AIを「敵」ではなく「パートナー」と捉え、新たなビジネスモデルを模索する動きも始まっています。AI Hackのようなツールを活用し、自社コンテンツがAIにどのように理解されているかを分析し、最適化する「AIOコンサルティング」サービスなどがその一例です。
また、AIプラットフォームとの直接提携により、推奨枠を確保する戦略も考えられます。AIの回答に自社商品が言及されるよう、プラットフォーム運営企業と連携するモデルです。
5. コミュニティ構築と直接的な関係性の強化
検索依存から脱却し、メールマガジン、SNS、オンラインコミュニティなどを通じて、ユーザーと直接的な関係性を構築することも重要です。AIが媒介せずとも、ユーザーが自発的にサイトを訪問する理由を作り出すのです。
実際に、定期的なニュースレターで価値ある情報を提供し、読者との強い関係性を築いているアフィリエイトサイトは、検索アルゴリズムの変化にも耐えうる安定した収益モデルを維持しています。
未来の情報取得と収益化の姿
AIと人間の関係性は今後も進化し続けます。2025年以降は、AIによる「マイクロインテント」の理解、つまりユーザーの微細な検索意図への対応がさらに高度化すると予測されています。
また、複数のAIが相互に連携し、より包括的な情報提供を行う「AIエコシステム」の発展も見込まれます。これにより、情報提供者は複数のAIプラットフォームへの最適化を同時に考慮する必要が出てきます。
アフィリエイト業界の収益モデルも変容するでしょう。従来のクリックベースのアフィリエイトから、AIプラットフォームを介した新たな報酬モデル(AIレコメンデーション報酬など)への移行が考えられます。
すでに一部のAIプラットフォームでは、AIの回答で自社製品が推奨された場合に広告費を支払う「AI推薦報酬型」の広告モデルの試験運用が始まっています。
変化を恐れず、適応する勇気を
情報との出会い方が「検索する」から「感じる」へと変化する中、アフィリエイト業界は大きな転換点に立っています。変化を恐れ従来のモデルに固執するのか、それとも新たなパラダイムに積極的に適応していくのか。その選択が、今後の業界の命運を分けるでしょう。